for God’s sake



<5>



5レースのあとはお昼休みらしい。
「何か食べますか?」
先輩に尋ねると、いいからいいからとぼくを公園へと引っぱった。
「じゃ〜ん!」
カバンから取り出されたものは保冷袋。
その中にはおいしそうなサンドウィッチ。
「早起きして作ってきたんだぜ?おれが無理行って連れ出したからな。お礼お礼。麻野の好きな、たまごとハムとチーズ。たくさん食べろよ」
先輩が?ぼくのために・・・?
もったいなくて食べられないよ、そんなの・・・
日常のゴハンのしたくは手の空いている方がすることになってるんだけど、それとお弁当とは違う気がする。
お弁当って、作らなくてもいいものをわざわざ作るから、そこに愛情がこもっている気が・・・
だめだ!そういう風に考えちゃだめ!先輩はお礼って言ったんだから・・・・・・
勝手に想像して、バカみたいな自分が恥ずかしい。
「せ、先輩、じゃあぼく、飲み物買ってきます。何がいいですか?」
思考を断ち切るために立ち上がり、希望のカフェオレを買いに走った。
待たせては悪いとダッシュで戻ってきたぼくの額に滲む汗を、小さなタオルで拭いてくれる。
子どもみたいだと思いながらも、その優しさに負けてしまう。
優しさを感じながら、きっとぼくのこと弟みたいに思ってるんだろうなって実感する。
お姉ちゃんが生きていて、もしふたりが結婚なんてことになったら、事実ぼくは先輩の弟になるんだった。
それに、友達と思ってくれているなら、もし友樹だったら、先輩はタオルを貸しこそすれ、自分で拭けとぶっきらぼうに言うだろう。
ぼくへの優しさは、すべてぼくが弟だから・・・そう思うとやりきれないけど、そう思わないとやりきれない。
そして、そう思えばこそ、ぼくは先輩と暮らしていける。一緒にいられる。
「なあ、麻野の紅茶、ちょっとちょうだい?」
ぼくは、そんな言葉にさえドキドキする。
間接キスだと、舞い上がる自分がいる。
先輩の何気ない言葉に一喜一憂するぼく・・・
だけど、ぼくの心は知られてはいけない。
先輩がぼくに平気でそんなことを言うのは、ぼくを意識していないから。
だから、ぼくの心は知られてはいけない。絶対に・・・
「だけどさ、馬券買って当たったのに換金しないなんて、競馬の意味ないじゃん」
先輩が可笑しそうにぼくを見た。
「だって、なんか申し訳なくて・・・」
「申し訳ないって・・・誰に・・・?まさか・・・馬に・・・?」
ぼくが頷くと、先輩は一瞬マジかよっていう驚きの表情を見せ、その後お腹を抱えて笑い出した。
「そ、そんなこと、考えてるの、おそらくこの欲望にかられた競馬場の中で、おまえだけだぜ、ぜってー」
ヒッヒッとひきつりながらも笑いが止まらないらしい先輩。
ぼく、そんなおかしいこと言ったのかな?
あまりに笑われて、恥ずかしくなって、俯いて黙り込んでしまったぼくを下から覗きこんだ先輩が、くすっと笑った。
「そんなところが麻野のかわいいところなんだけどなっ」
ぼくはますますかーっとなってしまった。
正直に顔に表れてしまう自分が恐い。先輩にぼくの気持ち、バレやしないかと・・・・・・

                                                                       




back next novels top top